日々是好日

そのさびをつれづれなるままに

子供は五人

一晩明けて、納棺の儀。喪主で妻のエイコさん、長男である我が旦那、長男妻の私、長女のアイコ一家、次女ケイコ、故人の姉夫妻、故人妹のサトヤマ一家、それからエイコさん側のヨウコ一家、ユウコ夫妻、という順番で故人の顔を簡単に拭いて行く。

余談だが、私の叔父の時は故人の手を持ちながら顔を拭くよう指示された。それに対して抵抗や戸惑いを覚えた親族もいたが、納棺師によってやり方が違うようで。

 

ともかく納棺が終わり、通夜までの空き時間。遠方から来た故人の姉夫妻と皆が交流している中、私は葬儀社から渡された資料から紙を一枚抜き取り、部屋の隅にて記入し始めた。持参した戸籍謄本を元に、故人の経歴表を埋める作業だ。

すると、ヨウコとユウコが素早く近寄って来た。離れて座っていたのに、どうしてこの紙だと察知したのか。彼女達は情報も無いし、勿論その立場にもなく、経歴表を埋めることは出来ないが、そこの欄がどうなるのかは気になっていたのだろう。今思い出しても笑えるくらい、行動が素早かった。

彼女達が見守る中、私はペンを走らせつつ念を押す意味で言ってやった。
「子供の人数は実子三人ってことで」
しかし、ヨウコの方が一枚上手だった。
「えっ、五人でしょう」
ヨウコは心底驚いたような表情。天然……を装っているのか?
「でも、お義父さんとは縁組みしてないですよね?」
戸籍謄本のコピーを掲げ、思い違いを訂正してやったつもりだ。
「でも……五人です!」
キッパリ! 大真面目な表情!! ……あ、こりゃ駄目だ。会話にならん。
「あーそうですかぁー……」
私は諦めて「三」に打消し線を入れ、その横に「五」と書き加えた。「三」に棒を足して「五」に偽造しなかったのが、せめてもの抵抗だ。

葬儀中に私などが揉め事を起こすわけにも行かないので、旦那や義妹達には「とりあえずその場ではそうしておいた」と報告し、判断を委ねることにした。喪主であるエイコさんも間違いなく「五人」と主張して来るだろうし、生前の義父が彼女達にそう接していたようだ、という私見も添えて。

 

結局、葬儀では訂正されることなくそのまま「子供は五人」と紹介された。それを受け、元からエイコさんを快く思っていなかった義父方の遠縁が、経緯は知らずとも彼女の図々しさの表れだと解釈し、「怒らずよく許したもんだね」と義妹に言って来て、義妹は自分達も非常識者に見られたと落ち込んでしまった。

今から思えば、「子供五人に恵まれて」のところを、人数をぼかすよう司会者に伝えておけば良かった。私が強引に「三人」で押し通すか、空欄にするか、そもそも彼女達が寄って来たのも適当にあしらっておけば良かった。あらゆる面で機転が利かなかったのが悔やまれる。

 

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本当はユウコもヨウコも分かっている。正しくは「三人」だと。納棺の際に自分達は末席に座り、清拭も最後に行っていたぐらいだから。ただ、義父の式では「子供」で居たかったのだろう。勿論、弁えて欲しかったが。

まあ、一言でいえば、面倒臭い人達だよ。全く。