日々是好日

そのさびをつれづれなるままに

一人暮らしと彼女の愚痴

義父が退院出来る見込みは限りなく薄かった。この先、エイコさんは一人暮らしとなる。年齢に関わらず、一人暮らしは心配だ。彼女の実娘のうち一人は結婚して遠方に住み、もう一人のユウコは比較的近い場所で一人暮らしをしている。生活費の問題もあるし、再婚までは二人で暮らしていたのだし、ユウコと同居してくれたら安心なのだけれど。

 

ケイコから借金した事件以降、私や旦那も、義父とエイコさんとは距離を置いていた。義父が入院した後も、病状が悪化することも快方に向かうこともなく変化に乏しかったため、一週間に一度だった見舞いが一ヶ月毎、三ヶ月毎、半年と間隔が開くようにもなっていた。

しかし、万が一エイコさんが倒れたら、そうも行くまい。エイコさんが病院とのやり取りで何をそんなに忙しがっているのかはさっぱり分からないのだが、代わりを勤めるのは嫌だ。義父に対して、そこまでマメに世話をする気にはなれない。病院通いに使う時間や交通費も馬鹿にならない。だから、エイコさんには元気で過ごして貰わなければ困る。そんな計算もあって、ユウコがエイコさんを引き取る形で一緒に暮らしてくれないかな、と私達は密かに願い続けていた。

ただ、それはユウコがエイコさんを養うということになる。行政からエイコさんへの支援は無くなる。ユウコが何で生計を立てているのか職業すら知らないが、二人分を稼ぎ出すのは多分無理だろうとは推測出来た。

 

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エイコさんの一人暮らしが五年も経過する頃、彼女からユウコについて報告を受けた。
「実は……ユウコが結婚してね」
「それはおめでとうございます」
ところが、目出度い話題である筈なのに、エイコさんの口調は苦々しく、その表情はさえない。

「何か……問題でも?」
聞いて欲しいというオーラを纏うエイコさんに、「ハイ、どーぞー」と軽い調子で先を促した。

ユウコは初婚なのに、相手は二周りも上のバツイチ男性で、エイコさんとは一桁しか年齢差がない。それが「息子」になったことが気に入らないし、彼には前妻との子が居り、家庭を持って独立しているとはいえ、ユウコが上手くやって行けるかどうかも心配だ。

そんな内容だったが、既に入籍済みであり、大の大人が自らの判断で結婚したのだから、周りがとやかく言っても仕方が無い。がっかりする気持ちは十分に理解出来るが、ユウコ本人が幸せに思っているのならば、それで良いではないか。と定型文のような慰めを述べると、エイコさんは得意の口癖、「まあ、男と女のことは分からないから、しょうがないね……」などと言っていた。

ともあれ、エイコさんがユウコと同居する可能性は、これで全く無くなった。彼女の一人暮らしは、今もまだ続いている。

 

家計がだらしないことは許せないが、私は基本的にエイコさんのことを嫌いではない。駄目な部分がむしろ、構えなくて済む材料になっている。旦那の本当の母親ではないので、嫁姑関係という感覚もなく、意外と気安い存在だ。彼女は元からざっくばらんな性格でもある。

エイコさんから見る私も、気楽な存在かと思われる。私が関わろうとしていないから、彼女も私を放置している。全く頼りにもならないが、例えばサトヤマ家についての不満を愚痴るには、非血縁者の私はちょうど良い。ユウコの結婚のことも、彼女達と顔を合わせているので、がっかり度に共感して貰い易いというわけ。

私達は互いに「テキトーにやって行きましょう」などと言い合っていたりする。

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