日々是好日

そのさびをつれづれなるままに

一人きりで眠れぬ夜

生体情報モニタの警告音が鳴ったからといって、そう焦るものでもないらしい。義父の脈拍は大体低めの90前後、高くて120、熱が出ると150から160前後で警告音が鳴り続けるが、看護士が氷枕を取り替えると徐々に落ち着くといった感じ。

 

義父の誕生日の後から三日間、旦那は偶然にも連続休暇が入っていたので、毎日一人で病院に通い続けた。ベッドに伏している義父に話し掛けるわけにも行かず、黙ったままで横に居て、額に乗せるタオルを冷たいものに時々取り替える。これまでは数ヶ月に一度顔を出してマッサージをし、二時間見舞えば長い方だったが、ちょうど読みたい本もあったので半日居ても苦痛ではないらしい。

これはエイコさんの言う「後悔しないように」を実践してのこと。旦那にそこまでされると、私や義妹達は戸惑ってしまう。同時に「後悔するも何もとうに覚悟は出来てるし」と冷めている部分もあり、私と義妹達はそれぞれ平常通りの生活を送っていた。

 

旦那の休暇が明けて二日後、義母から電話が来た。ほんの一時だったが脈が20に落ち、今はまた戻ったのだけど……と言う。曖昧で判断が付かないので単刀直入「行った方が良い状況?」と訊くと、「出来れば」と。いつものように「あなた達が後悔しないように」とも。

連絡が来たのが夕方だったため、私達が病院に着いたのは面会時間を過ぎてからだった。夜間緊急受付窓口で義父の名前を出すと、義母が予め話してあったらしく、あっさり通された。そんな「緊急」事態なのか? と足早に病室に入る。しかし、相変わらず熱はあるものの、義父の状態は落ち着いていた。義母は帰り支度を始めていた。

じきに義妹達も到着したところで、義母は「状態が悪いから電話したんだけどね。疲れたから私は帰るわ」と言い、実娘ユウコの車でさっさと帰宅してしまった。残された私達は「結局はまた大袈裟に騒いでたってことなのかな……」と只々唖然。

ここで旦那が、これまた偶然にも翌日が休日に当たっていたので、せっかく来たのだしと、病院に泊まって行くと言い出した。病院では24時間看てくれるので付き添いは不要だが、希望すれば残っても問題ないらしい。それならば、と義妹達も協力を申し出た。ケイコの翌日の仕事は午後からで、自宅が遠いため、今夜は病院から割と近いアイコの家に泊めて貰い、翌朝に再び見舞ってから出勤することにした。アイコは家族を仕事や学校に送り出した後、ケイコを車に乗せて病院に来て、前夜から泊り込みとなる旦那と交代することになった。

翌日に美容室の予約を入れていた私はひとまず予定通りに行かせて貰い、後で合流することにした。この一ヶ月、義父のことで何となく行きそびれていたし、今回キャンセルしてもまた同じことが起こるかもしれない。

 

一人で自宅に帰り、夕食代わりのパンを一枚食べてから、すぐにベッドに入った。義父が倒れて以降、いつ夜中に電話が鳴っても不思議ではなかったが、今日こそ可能性が高いと思わざるを得ない。自宅に一人、電話が鳴ったら絶対に自分が取らねばならないので緊張する。その一方で、義母が「また大袈裟に騒いでた」で終わりそうな気もしていた。ケイコが言う「あと三ヶ月か半年」のうち、まだ一ヶ月も経っていないのだから。

その夜はなかなか寝付けず、閉じた瞼の向こうで、夜が白々と明けて行くのが分かった。

 

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